会長挨拶


変化への柔軟な対応という「伝統」 

地域漁業学会会長 山下東子


 当学会は間もなく「還暦」を迎えます。「西日本漁業経済学会」という特定地域名を携えて発足した学会でしたが、1960年代末にははや東アジアや東南アジア出身と思しき執筆者やそれらの地域を題材とした論文が掲載され始め、1982年以降は英文の論文も掲載されます。学会の名称が現在の「地域漁業学会」に改称されたのは1995年ですが、それ以前から当学会は国際化しており、実態として国内外の「地域漁業」を取り扱う学会へと変貌していたわけです。

 これには日本で学んだ留学生の貢献も大なるものがあります。彼ら・彼女らが学位取得を目指して研究実績を積み上げていくうえで、当学会が発表の場となりました。留学生が当学会のもつ地域性の意味を拡大してくれた意義は大きいです。加えて、海外で仕事や調査を行った日本人研究者による貢献もまた当学会の国際性を特徴づける推進力となりました。

 当学会の特徴は地域性・学際性・国際性にあります。地域性、国際性については以上の沿革と歩みを一にしておりますが、「学際性」については設立当初から持ち合わせていたようです。学会名に「経済」を付してはいますが、それは経済学という一学問領域を指すと言うよりは、自然科学に対応する社会科学分野の学会誌であるという主張であったかと思います。学会で取扱われる内容は、地理学、歴史学、人類学、民俗学、社会学、経営学等々、広範囲でありかつそれらのハイブリッド型も多く見られます。

 変わらないのは、漁業を軸にしているということ位でしょうか。 一地域で産声を上げた学会が60年を経てこのように拡大・存続しているとは有り難いことです。「伝統を守るには軸をしっかりと持ちつつも時代の変化を柔軟に取り込んでいかねばならない」とはよく言われることですが、当学会は変化を先取りすることを伝統としてきたのです。歴代の会員諸氏に感謝するとともに、現会員である我々もまた、社会の変化にアンテナを張り巡らせ、研究の中に取り入れていく必要があるでしょう。

 学会の存在意義は情報発信機能にあります。新進の研究者や外国人留学生が発信の場として利用するだけの価値を感じてもらえるような魅力ある学会にしてかなければなりません。シンポジウムや各種研究会の充実、学会誌の質的向上とスピード感、会員相互の交流を通じた学術の振興がはかれるよう、会員諸氏のお力添えをいただきつつ努力してまいりたいと思います。よろしくお願いいたします。