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地域漁業学会第53 回大会(鹿児島大会)報告


1)地域漁業学会第53回大会に出席して


 今年3月に開通したばかりの九州新幹線に乗って鹿児島中央駅までやってきた私を迎えたのは、桜島が吐き出す大量の火山灰であった。街のあちこちを黒く染める火山灰に驚きながら、私の地域漁業学会における2日間が幕を開けた。

 初日に行われたシンポジウムでは「離島漁業の存立基盤の現状と課題」というテーマについて、5名の研究報告があり、次いでコメンテーター並びにフロアからのコメントや質疑応答がなされた。この日はとても11月と思えぬほど気温が高かったため、開けっ放しになった窓から、風と共に火山灰が容赦なく会場に入り込んできたのであるが、それが気にならなくなるほど白熱した議論が繰り広げられた。そして、離島と一口に言っても、それを取り巻く状況は実に多種多様であること、人口の減少や漁業の衰退など多くの問題を抱えつつ、他方では離島が豊かな水産資源を持ち、固有の文化を育んできた誇るべき歴史がある点など、様々なことを私は学んだ。離島漁業における様々な課題を、どう乗り越えれば良いのか、会場にいた他の参加者と共に考えているうちに、ふと私が思ったのは、そういえば私の研究テーマにしているハワイも、離島だということである。
 
 日本の離島の現状と、100年前のハワイを同列に論じるのは乱暴であるが、太平洋のほぼ真ん中に位置していたが故に、西洋から「発見」されるのが最も遅かったというハワイは、欧米諸国中枢から見て、とんでもなく遠い島であっただろう。しかし、19世紀中頃になると、遠路はるばるアメリカやイギリスから多くの捕鯨船がハワイの海に結集し、またそれから約半世紀もすると、今度は太平洋の西の端に位置する日本の和歌山県や広島県、山口県などからやってきた日本人が操る漁船がハワイで大活躍し始め、現地における近代的な漁業を確立させていく。離島の漁業であるが故の悩みというものを、もし100年前のハワイが抱えていたとすれば、人々はどのように解決をはかったのだろうか、などなど、日本の離島の話しを聞きながらつい、私の脳裏ではハワイの島々が交錯し始めたのであった。

 鹿児島県は海と縁が深い。桜島を抱える錦江湾だけではなく、実に600キロに渡って大小様々な島が連なり、それらを取り巻く海と共に人々は生きてきた。そのような海の香り高い鹿児島の地にいれば、漁業を語る口調に熱を帯びるのは当たり前であろう。大会二日目は、二つの会場で個別報告が行われたが、いずれの報告もテーマが実に多彩かつ示唆に富み、会場との質疑応答も、非常に建設的な雰囲気で行われていたのが印象的であった。

 たった2日間の大会であったが、私にとっては、もっと長い時間を鹿児島で過ごしたような気分がする。それはきっと心地よかったからであろう。最後になりますが、そのような素敵な空間を用意してくれた鹿児島大学水産学部を始めとする関係者の皆様に感謝の意を表します。(小川真和子 水産大学校)

2)実施概要

日時:2010年11月4日(金)〜6日(日)
場所:鹿児島大学水産学部4号館(講義棟)2階
   鹿児島市下荒田4−50−20

   日程:
     4日(金) 15:00〜 各種委員会
           18:00〜 理事会
     5日(土)  9:00〜 受付開始

           9:30〜16:00 シンポジウム
           16:00〜 総会
           18:00〜 懇親会(大学生協水産食堂):飲み物・食べ物持ち込み可
      6日(日) 9:00〜 受付開始
           9:30〜15:10 個別報告

   費用:
    参加費 :2000円(要旨集代込み。個人会員、学生会員ともに同額)
          なお、非会員で要旨集希望者は2000円。要旨集不要者は無料。
    懇親会費:一般3000円、学生1500円

3)シンポジウムの概要と報告要旨

テーマ  『離島漁業の存立基盤の現状と課題』

司会:三輪 千年(水産大学校)・佐々木貴文(鹿児島大学)

コメンテーター:佐久間美明(鹿児島大学)・竹ノ内徳人(愛媛大学)・
田中史朗(鹿児島県立短期大学)

第1報告:工藤貴史「離島漁業の条件不利性と水産政策の課題」
第2報告:西野博「鹿児島県における離島行政・政策」
第3報告:鳥居享司「離島漁業への公的支援と漁業構造の変化」
第4報告:大谷誠「山口県の離島部における若年者の流入・定着条件」
第5報告:宮内和一郎「離島における水産物流通の現状」

趣旨説明

1.シンポジウムの目的
 近年,国防,海底鉱物資源や水産食料資源の確保など多様な側面から「島」への注目度が高まっている。
我が国の領土面積は世界において中位程度に留まるが,多方に分散する離島が存在するが故に,排他的経済水域の面積は世界第6位の広さを誇る。その排他的経済水域には,水産食料資源の他にも石油・天然ガス,希土類など豊富な鉱物資源の存在が指摘されている。鉱物資源の大半を海外からの輸入に頼ってきた我が国にとって,排他的経済水域と海底鉱物資源をもたらす「島」は重要な存在である。
 しかしながら,我が国の領土・領海は「平和な状況」には置かれていない。例えば,尖閣諸島や竹島など島々について隣国等が領土である旨を主張するなど不安定な状況下にある。こうした島々を我が国の領土として保全していくためには,自衛隊と在日米軍などによる防衛のみならず,日本人が島に居住して生活を育み続けることが重要である。
それでは,こうした離島はどのように維持されているのだろうか。離島振興法の対象となる261島の島嶼社会・経済状況についてみてみたい。財団法人・日本離島センターの離島統計年報によると,人口は20.3万人,65歳以上の高齢者が占める高齢化率は32.9%である。日本全体の高齢化率は22.1%であることから,島嶼では高齢化がかなり進んでいる。
 国勢調査(2005年)による産業別就業者数をみると,島嶼における就業者総数20.7万人のうち,第1次産業25.6%,第2次産業17.4%,第3次産業56.8%となっている。日本全体の就業構造は,第1次産業4.8%,第2次産業26.1%,第3次産業69.1%であることから,島嶼では第1次産業への就業割合が高いと言えよう。さらに,島嶼における第1次産業の就業者内訳を見ると,水産業47.0%,農業52.5%であり,水産業と農業の従事割合は拮抗している。ただし,その生産金額には大きな差がある。島嶼における第1次産業の生産総額は2,078億円であるが,その内訳は水産業70.5%,農業28.6%であり,水産業は離島経済にとって重要な位置にあることが分かる。
 それでは,離島の基幹産業である水産業の経営は安泰なのであろうか。離島における漁業経営については,水産資源に恵まれることが多い一方で,さまざまな条件不利の存在が指摘されている。生産面では燃油や資材の単価が高く経営費用を押し上げる,販売面では島内市場が小さい故に島外市場に頼らざるを得ない,しかし島外市場への輸送には費用がかかる,当該輸送はフェリーの運航スケジュールに左右される,そのうえ鮮度劣化の可能性もあるため販売価格は安価になるケースが多いなど,生産から販売において数多くの条件不利が指摘されている。こうしたことから,離島における漁業経営は厳しさに直面している。
 離島漁業の弱体化は,我々に何をもたらすのであろうか。
 まず指摘できるのは,水産物の供給減少である。離島漁業の生産金額は,我が国全体のおおよそ10%を占めており,その割合はこの25年ほぼ一定で推移している。しかし,離島漁業のさらなる衰退は水産物の供給力を細らせる。離島漁業による供給減少を輸入で代替することについては,世界的な人口増加に伴って食料確保を巡る競合関係が厳しさを増していることから,必ずしも安定的な方法とは言えない。
 離島経済の弱体化に拍車がかかる可能性もある。産業に乏しい離島において,漁業が基幹産業になっているケースは少なくない。先述したとおり,離島における第1次産業生産金額の70%を漁業が占める。また,離島における就業者総数の11.9%を漁業が占め,農業とならんで就業機会を生み出す重要な産業である。漁業生産の弱体化は,漁家経営の存続を危うくするのみならず,水産加工など水産関連産業などの弱体化を招き,ひいては水産業を主力産業とする離島経済を崩壊させる可能性がある。
離島における漁業経営や地域経済が弱体化すれば,水産業や漁村が果たしてきた多面的機能が喪失する可能性がある。水産業・漁村には食料供給という本来的機能以外に,国境監視,海難救助など国民の生命財産保全,生態系の保全や物質循環の補完など自然環境保全,雇用創出などの地域社会の形成・維持などの多面的機能を有していることが指摘されている。これら多面的機能は漁業生産活動と一体となって発揮される機能であることから,漁業や漁村の弱体化は多面的機能の衰退につながる可能性がある。先述したように我が国の領土・領海をめぐっては隣国と緊張関係が存在することから,国境監視等の機能を有する漁業・漁村の有する多面的機能の衰退は看過できない問題である。
 このように離島漁業・漁村は,食料供給機能のみならず,重要な機能・役割をもった産業・地域であり,その維持存続に向けた方策を検討することが社会的にも重要であると考えられる。
 こうした問題意識に基づき,本シンポジウムでは,離島漁業の存立基盤の現状と課題について多様な側面(政策,生産,担い手,流通)から議論を加えたい。

2.報告構成
 第1報告は,「離島漁業の条件不利性と水産政策の課題」(東京海洋大学・工藤貴史)である。離島漁業が多様な条件不利を抱えていることは先述したとおりである。ここでは,条件不利性を具体的に論じることを通じて,不利性の要素解明を試みる。さらに,我が国における離島漁業政策について報告する。
 第2報告は,「鹿児島県における離島行政・政策」(鹿児島県庁・西野博)である。多島県のひとつである鹿児島県を事例に,地方自治体による離島行政の目的と具体的施策について報告する。
 第3報告は,「離島漁業への公的支援と漁業構造の変化」(鹿児島大学・鳥居享司)である。一般に離島周辺海域は水産資源や漁場環境に恵まれていることが指摘されている。鹿児島県や長崎県の離島事例に,恵まれた水産資源や漁場環境の活用を目指した政策と離島漁業経営の実態について焦点をあてて報告する。
 第4報告は,「山口県の離島部における若年者の流入・定着条件」(水産大学校・大谷誠)である。山口県内において漁業生産が盛んな離島を事例に,漁業生産の担い手と生活の問題に焦点を当てる。漁業就業にあたり生活環境が重要視されることに注目し,生活環境の違いが就業実態に与える影響等を報告する。
 第5報告は,「離島における水産物流通の現状」(鹿児島県漁連・宮内和一郎)である。先述したように離島漁業は数多くの販売条件不利を抱えている。鹿児島県の離島を事例に,いかなる販売条件不利が存在するのか。販売条件不利の改善を目指してどのような取り組みが行われ,その成果と限界点はどうなっているのか,といった点を中心に報告する。     (研究企画委員会委員長 鳥居享司)

タイムスケジュール

9:30〜9:40 開会挨拶

9:40〜9:50 主旨説明

9:50〜10:20 第1報告:工藤貴史(東京海洋大学)
離島漁業の条件不利性と水産政策の課題

10:20〜10:50 第2報告:西野博(鹿児島県庁)
鹿児島県における離島行政・政策

10:50〜11:20 第3報告:鳥居享司(鹿児島大学)
離島漁業への公的支援と漁業構造の変化

11:20〜11:50 第4報告:大谷誠(水産大学校)
山口県の離島部における若年者の流入・定着条件

11:50〜12:20 第5報告:宮内和一郎(鹿児島県漁業協同組合連合会)
  離島における水産物流通の現状

12:20〜13:30 昼休憩

13:30〜13:40 コメント:佐久間美明

13:40〜13:50 コメント:竹ノ内徳人

13:50〜14:00 コメント:田中史朗

14:00〜14:10 小休憩

14:10〜16:00 総合討論


報告要旨

離島漁業の条件不利性と水産政策の課題」
 
                 工藤貴史(東京海洋大学)

 本報告は、離島漁業の条件不利性を明らかにし、そこから離島漁業の政策課題と支援手法について検討することを目的としている。離島漁業の条件不利性とその政策課題に関する先行研究はいくつかあるが、前者については個別離島における水産物流通の実態から論じたものが殆どであり、後者については多面的機能発揮という側面から論じたものが多い。これらの研究蓄積はあるものの、離島漁業全体の条件不利性の解明と離島固有の水産政策の課題については十分に議論されてこなかったといえる。そこで、本報告は、1)離島地区と本土地区を漁業センサス等の統計資料を用いて諸条件を比較するとともに、事例調査から条件不利性の実態を明らかにすること、2)水産振興を目的とした条件不利の是正と支援手法について検討することを課題としたい。
 漁業は自然、資本、労働力、市場を存立条件としており、さらに副次的な条件として生活環境条件、関連産業集積、インフラ整備、財政等が挙げられる。離島地域は自然条件以外の諸条件が本土地域よりも不利な地域が多く、なかでも市場条件の不利性は顕著である。離島地域は、島内に産地市場がなく、島外市場へ鮮魚出荷される割合が高い。そのため、本土地区よりも出荷経費(箱代、氷代、運送費等)が多くかかることとなり、また市場で取引されるまでに時間を要することから鮮度劣化が避けられず市場評価も本土地区と比べて劣位とならざるをえない。さらに、定期航路を利用して島外へ出荷されるケースが多いことから、運行スケジュールによって漁業の操業時間が制約されることとなる。こうした条件不利を改善するためには、島内で加工・冷凍して高付加価値化や出荷調整をするといった対策がなされることが一般的ではあるが、離島地区は本土地区に比べて地元資本が乏しく水産加工業や冷凍工場の規模は零細なため十分な流通改善が実現されない地域が多い。また地元資本が零細であることに加えて、労働力条件も本土に比べると劣位であることから、離島地区の漁業経営は零細な個人経営が多く、単身操業が中心となっている。
 離島漁業は、こうした様々な条件不利によって、本土地区よりも漁業の衰退傾向が顕著である。現在、こうした状況に対して離島漁業再生支援交付金制度が実施されているが、当該制度では本土に比べて比較的優位な漁場の生産力向上を主な目的としており、流通や販売面での条件不利を改善する取組みを実施している漁業集落は多くない。また、当該制度を実施していない離島市町村も多く、この原因のひとつは、離島市町村の財政力指数が0.20と全国平均0.41を大きく下回っていることからも明らかな通り逼迫した財政状況によるところが大きいものと推察される。
 当該制度が以上のような課題の抱えているのは、離島漁業の現状把握からではなく、多面的機能論を出自に農政に追従するべく政策形成されてきたことが背景にあると考えられる。当該制度が水産政策(水産物の安定供給の確保と水産業の健全な発展)として機能するためには、その目的を漁場生産力の向上から条件不利の是正に力点を移し、具体的には出荷経費の補助や、販路拡大、簡易加工等による商品開発などの取組みを支援することが現場からは求められていると考えられる。ただし、今日の離島市町村の財政状況を見るに、財政によって漁業経営を維持していくには限界があり、自律的かつ持続的な漁業経営が実現されるような方向性が求められると考えられる。

「離島漁業への公的支援と漁業構造の変化


         鳥居享司(鹿児島大学)

 離島における漁業経営については,さまざまな条件不利の存在が指摘されている。生産面では燃油や資材の単価が高く経営費用を押し上げる。販売面では島内市場が小さい故に島外市場に頼らざるを得ない。しかし島外市場への輸送には費用がかかるうえ,島外輸送はフェリーの運航スケジュールに左右される。輸送に時間がかかることから鮮度劣化による単価下落がみられるなど,生産から販売において数多くの条件不利が指摘されている。こうしたことから,離島における漁業経営は厳しい状況に置かれる場合が多い。その一方で,離島周辺海域は豊富な水産資源や良好な漁場環境に恵まれる場合も少なくない。恵まれた水産資源や漁場環境を活かすべく,様々な公的支援を行うことによって,離島地域と漁業経営の改善を目指す地域もみらる。
 本報告では,鹿児島県与論島と長崎県五島を事例に,資源利用及び漁場利用への支援が漁業経営に与えた効果と課題について明らかにすることを目的とする。
鹿児島県与論島においては,1980年代以降,国や鹿児島県等の支援によって浮き魚礁(パヤオ)が複数,設置されている。新たに生まれたパヤオ漁業によってマグロやカツオ,シイラ等が漁獲されている。従来までに比べて遙かに多くの漁獲をあげ,漁業経営が順調に推移したことから,地元内外,漁業者子息,非漁家から新規参入が相次いぎ,漁船の大型化をすすめる経営体もみられた。
 長崎県五島においては,恵まれた漁場環境と水産資源(ヨコワ)を武器に,マグロ養殖資本の誘致と養殖規模拡大に力が注がれている。長崎県は空き漁場等の情報提供や参入にかかるルールづくりに積極的な姿勢を示している。五島市はマグロ養殖業を地域の一大産業に育成すべく,養殖インフラの整備に力を注いでいる。その結果,2014年には年間1,000トン,25億円前後の生産が見込まれている。生産活動の拡大に呼応して,漁協の各種経済利用の利用金額は右肩上がりに増加し,漁協経営にとって重要な収入源となっている。ヨコワの供給役を担う漁業者へも経済的利益が発生している。
ともに,恵まれた水産資源や漁場環境を活用すべく公的支援が行われ,漁業生産活動は活発化している。しかしながら,離島漁業が抱える条件不利性の呪縛から完全に逃れることができたわけではない。与論島においては,近年の燃油価格高騰が漁船大型化を進めた漁家経営のコストを引き上げる一方,島外出荷価格は下落傾向を示している。年間の島外出荷価格が島内出荷価格よりも下回る年度もみられたが,島内市場には限りがあるため,多くの費用をかけて島外出荷せざるを得ず,漁業からの利益減少が指摘されている。
一方の五島においても,近い将来,人工種苗の供給力の増強によって,ヨコワ資源に恵まるといったメリットが薄れる可能性もある。また,和歌山県や三重県など消費地により近い地域において漁場が確保されれば,市場から遠いが故に競争力を失うことも考えられる。
本報告では,離島漁業への公的支援の効果と限界点に着目しながら,今後の離島漁業経営について考えていきたい。

「山口県の離島部における若年者の流入・定着条件」

         大谷誠(水産大学校)

 本報告は、離島漁業の存立基盤について、人的資源の側面から現状と課題の把握することを目的とする。このため、離島振興法の適用される離島が21と全国で6番目に多い山口県において、若年漁業者が多く存在している離島を対象として、若年漁業者の流入・定着条件を抽出することに努める。
山口県の離島は、面積が小さくかつ本土近接型であり、人口が1000人を下回るため、水産業を除く島内産業が未発達であり病院や学校、商店も少ない共通点を有する(見島を除く)。しかし、瀬戸内海から日本海側まで存在することから、離島によって漁業構造が異なり、高齢化率にも大きな差が生じている。このため、若年漁業者が多く存在している瀬戸内海の浮島、響灘の蓋井島、日本海の萩大島を研究対象とする。
 離島部に存在する若年者は、島内出身の新規学卒者とUターン者、島外出身のIターンが混在している。しかし、山口県ではIターン確保の目的を過疎化対策から漁業者確保策に変えつつあることと、漁家出身者に対する就業支援策を拡充していることを背景として、雇用型漁業が存在する離島でIターン者が就業する一方、漁家漁業が中心の離島では島内出身者が就業する傾向が強まっている。このような各離島の漁業構造と島内若年者の属性との関係について報告で少し取り上げたい。
 また、離島部の就業構造には、漁業就業前に島外生活期間が存在し、その上で島内か島外かの選択がなされる特徴を確認できる。これは、中高校時に本土で下宿生活を行うことや世間を知るため一定期間本土側で就業する場合が多いことに起因する。このため、若年者の選択基準とその基準を満たす条件を把握することが、離島部の存立を支える人的資源の確保に必要である。
 この選択基準として、研究対象とした離島の調査では「所得」と「自由」がキーワードとして浮かび上がる。そして、この基準を満たす条件として、第一に生活必要金額の確保を可能とする就業先の存在が挙げられる。対象離島では、一つ一つの漁種が不振でも、年間総所得を高めるための複数漁種の組み合わせと世帯総所得を高めるための家族労働力の効率的配分がなされている実態が看取できる。第二に、若年者の自己実現機会である。対象離島では若年者の自由裁量で行動できる部分が多く存在し、若年者が自己実現として活き活きと活動する姿が目に付く。漁業活動における親からの早期独立、生計の分離や別居による自由度の増加や民宿やアクセサリー作りなどの兼業機会の創出が、若年者のモチベーションとなっている。第三に、同世代の存在である。「若者が若者を呼ぶ」という言葉はどの離島でも聞かれる。生活環境に不利性を有する離島において、若年者の生活には同世代が存在する共同体が不可欠と考えられる。本報告では、対象離島において以上のような条件を抽出精査することで、離島部の若年者の流入・定着条件を検討する。

4)個別報告プログラム(11月6日(日))

<A会場 23号講義室>

A-1 9:30〜9:50  磯部作「海底ゴミ問題対策の状況と課題」

A-2 9:50〜10:10 大串伸吾「渓流釣り場管理における遊漁者参画の課題とあり方:岐阜県
石徹白川と山梨県道志川におけるゾーニング管理を事例として」

A-3 10:10〜10:30 遠藤愛子・河津静花・田上英明・塩入同・眞岩一幸「森川海の一体的管理の
課題解決に向けた実証的分析:全国20カ所の先進事例をもとに」

        <休憩>

A-4 10:40〜11:00 日高健「コモンズとしての里海とそのガバナンスの変化」

A-5 11:00〜11:20 牧野光琢・桜井泰憲「知床水産業の気候変動への適応」

A-6 11:20〜11:40 Jokim Kitolelei「COMMUNITY-BASED AND CO-MANAGEMENT IN
FISHING VILLAGES - The Case of Japanese Spiny Lobster Fisheries in
Sata Misaki, Kagoshima Prefecture, Japan -」

A-7 11:40〜12:00 Salome V. Tupou-Taufa「A Study of the Structure of Distribution for
Fresh Tuna at Production Wholesale Markets:A Case Study of
Kagoshima, Katsu-ura and Aburatsu Wholesale Market」

        <昼休み>

A-8 13:30〜13:50 河原典史「20世紀初頭のカナダ西岸における日本人漁業者の漁場利用:
日記と視察報告書からのアプローチ」

A-9 13:50〜14:10 鈴木隆史・亀田和彦「インドネシアにおける漁業生産と漁村経済の発展に
関わる商人の介在形態の変化とその意義:先行研究の成果と
1980年代前後の動きに注目して」
  
A-10 14:10〜14:30  山尾政博「アジア海域社会の水産業復興と漁村社会の再建:
2004年スマトラ沖地震・津波災害から学ぶ」

A-11 14:30〜14:50 山下東子「高齢漁業者の漁業継続動機・廃業動機」

A-12 14:50〜15:10 川島葛偉悦「3.11後の三陸地域に於ける漁港の復興案」


<B会場 22号講義室>

B-1 9:30〜9:50  酒井亮介「活魚船(イケフネ)輸送による天然活マダイの刺身文化」

B-2 9:50〜10:10 長谷川健二「養殖マダイの流通と中間流通業者の対応」

B-3 10:10〜10:30 竹ノ内徳人・稲井大典・野田松太郎「愛媛県産養殖魚を対象とした
生産流通情報システム開発における情報伝達効果と課題」

        <休憩>

B-4 10:40〜11:00 田中佑佳「漁協直営の自己完結型直売所の運営問題:
   福岡県JF糸島「志摩の四季」を事例として」

B-5 11:00〜11:20 山下和樹・山尾政博・細野賢治「中国向け水産物輸出の現状:
長崎魚市の鮮魚輸出を事例に」

B-6 11:20〜11:40 張溢卓「中国における水産物加工企業の「進料加工」体制とその構造的諸問題」

B-7 11:40〜12:00 上原政幸「モズク養殖業の産業連関分析の試み」

        <昼休み>

B-8 13:30〜13:50 若林良和「地域資源としてのパヤオ(FAD)に関する現代的な意義:
沖縄県宮古島地域を事例として」

B-9 13:50〜14:10 吉村健司「与那国島における漁業の新たな展開:
「石垣島かつおだし」の参入によるカツオの商品化」

B-10 14:10〜14:30 田中史朗「条件不利地域(離島)における地域発展モデルに関する研究」

B-11 14:30〜14:50 金丸晴樹「ドラッカーモデルによる地域漁業のリーダーシップ研究:
            豊前海地域のかき養殖産地形成過程を事例として」

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